東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1143号 判決
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十五年三月二日承認番号第三三〇号をもつて訴外中村チヨ名儀の建築届を受理した行政処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実並びに証拠の関係は、控訴代理人において証拠として新たに、甲第十一号証の一、二、同第十二号証を提出し当審証人野崎恒雄の証言を援用すると述べ、被控訴代理人において右甲号各証の成立を認めると述べた外、すべて原判決の「事実」の部分の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
三、理 由
当裁判所は控訴人の本訴請求を理由なきものと認める。而してその理由は以下に附加説示する外、原判決の「理由」の部分において説示するところと同様であるから、これを引用する。
即ち、甲第九号証その他控訴人が当審において提出援用する証拠によつては未だ原判決認定の事実を覆すに足りない。なお原審証人栗原徳吉の証言によれば、同人は中村チヨに対し本件(イ)ないし(ヘ)の土地全部を売り渡すことを約したが、未だその代金を完済しないため所有権移転登記手続をなすに至らないことが認められるから、甲第十一号証の一、二により認められるように現在未だ栗原徳吉に登記名儀があつても、右売買契約が虚偽仮装のもの或は既に解除されたものとなすに足りないし、他にかかる事実を認めるに足る証拠がない。
而して令において建築物の敷地とは一構の建築物に属する一団の土地をいうことは令第十六条の規定により明かであるが、本件(乙)家屋建築当時本件(ロ)の土地の一部たる(1)土地をその敷地として届出をなした事実その他右(1)土地が(乙)家屋のために建築法令にいわゆる敷地であることを認めしめるに足る証拠がなく、却つて原審証人栗原徳吉、同志水一明の各証言によれば、志水一明は(乙)家屋を栗原徳吉から借り受けたが、(1)土地は(乙)家屋の敷地として使用しているのではなく単に空地であるため日常生活に際し物乾場等の用に供しているに過ぎないのであり、栗原徳吉も未だ(1)土地を何人にも貸与したことがないことが窺われる。従つてたとえ現在(ロ)土地のうち(1)土地がその余の部分(I、J、K、V、T、Iの各点を直線を以て結んだ線内の土地)との間に境界、側溝その他の標識により区劃されていず、現況が一団の土地となつているからといつて、これを以て直ちに(ロ)土地全部が(乙)家屋の敷地であるとなすことができない。従つて(乙)家屋の敷地は前記I、J、K、V、T、Iの各点を直線を以て結ぶ線内の土地を指すものとなすを相当とする。
仮に(ロ)土地全部が(乙)家屋の敷地であるとしても、細則第二十八条の規定は、本件の如くその一部たる(1)土地を分割変更して他の建築物(本件においては中村チヨの増築建物)の敷地となし、且つ、令第十四条、規則第六条の二の定める建蔽率を維持するため、(ヘ)土地の一部を(乙)家屋の敷地とする場合にも適用あるものと解すべく、而して右細則第二十八条の規定は建築主に対して敷地の変更に関する承認を受けることを要求したものであるから、(乙)家屋の建築主でない中村チヨは(乙)家屋のかかる敷地の変更の承認を受ける義務のないことはいうまでもない。従つて中村チヨが乙家屋の敷地変更を前提として本件建築届を提出するにあたり、予め右敷地変更の承認を受けなかつたからといつて、直ちにその建築届受理を違法となすべきではない。のみならず、原判決の説示するように(1)土地を本件増築家屋の敷地として分割変更しても(乙)家屋の建蔽率が法令の規定に触れない範囲で敷地変更増加のあつた場合には細則第二十八条但書の規定により承認を受けることを要しないのであるから、仮に(1)土地が(乙)家屋の敷地であつたとして、これを無視して増築家屋の敷地であるとした中村チヨの届出に瑕疵があつたとしても、後に(乙)家屋の敷地が変更されたことによつて治癒されたものというべきである。
なお法第十八条の規定は任意規定であつて、法施行前の建物につき法の施行によりその建蔽率が令第十四条、規則第六条の二の規定に合しない場合においてその建蔽率を維持させるため、その敷地の変更又は建物の除却、改築等の措置をとることは望ましいことではあるが、土地の状況により必ずしも行政官庁においてかかる措置を命じなければならぬものでもないし、又建築主においてこれに対応する措置をしなければならないものではないと解するを相当とする。
又原判決の説示するように、赤線区域中、(ホ)の通路は現に二村良助等の使用中のもので、しかもそのうちM、N、S、R、L、Mの各点を順次直線で結ぶ線内の土地は、二村の賃借するところであり、又(1)土地及び(3)土地も本件建築届の受理された当時は志水一明、二村良助等においてそれぞれ使用していたものであるが(3)土地は原判決のいうように当時空地でなかつた点において瑕疵があつても、その後除却により予定通り治癒されて空地となり、(1)土地は少くとも本件建築届の受理当時敷地の変更により(乙)家屋の敷地から分割して空地として本件増築家屋の敷地となつたこと前説示のとおりであり、その余の土地も(丙)家屋の法令上の敷地ではなくいわゆる空地と考えられるのであつて(前記M、N、S、R、L、Mの各点を順次直線を以て結ぶ線内の土地は後に二村良助が借り増したもので、(丙)家屋の敷地でないことは原審証人二村良助の証言により明かである。)、本件建築届において他の家屋の敷地を重ねて本件家屋の敷地となしたものには該当しないから、中村チヨにおいてこれを増築家屋の敷地として本件建築届を提出し、これを受理することは何等違法となすべきではない。もとより成立に争のない甲第十号証、同第十二号証、原審証人井上ヒデ、同萩原正三、同栗原徳吉、同中村チヨの各証言を参酌し、当裁判所が真正に成立したものと認める乙第一号証の八により窺われるように本件建築届提出当時二村良助において中村チヨに対し(3)土地を本件増築家屋の敷地として使用することを承諾しながら、後に至つてこれを争うに至つたとしても、本件届出受理の適法性には何等の消長を来すものではない。
以上説示のとおり、本件建築届の受理については、これを取り消すべき瑕疵がないことに帰するから、被控訴人が右受理をなすに当り現地調査をしなくてもこれを違法となすべきではない。
然らば控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)